ガラム、ぼくがぼくらしく生きるということ

日記

最近の若い人にしては珍しく、ぼくは煙草を吸う。

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ガラムだ。

街はおろか、喫煙所でさえ煙たがられる。そういう煙草だ。

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ここ最近のぼくは花を愛で、料理をし、ぬいぐるみに囲まれ、紅茶をしばく人畜無害人間である。

人に好かれたいなどと抜かしている。

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そのわりには、人好きのしない煙草をふかし、ほぼ毎晩職質をくらっている。

いびつなものである。

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大学3年の冬。

家族が蒸発し、推しは卒業し、しかしやるべき仕事は山積み。

そんなぼくは海外に行くことになった。

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遠く南洋に浮かぶ、インドネシアという国だ。

ぼくは当時2つのサークルと、1つの開発案件、それから倉庫のアルバイトを抱えていた。関わる人は1000人弱にのぼる。 そうした仕事を放り出す形で出国した。

帰国して、いの一番に言われたのは「このやろう、高飛びしやがって」。そのくらいには。

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何もなかった。

あるのは、まとわりつくような湿気、うだるような暑さ、利きすぎるエアコン、どぶ川、闊歩するネコやネズミ、バイクと車、からいもの、甘いもの、油ぎったもの、煙草だけだった。

仕事をしようにも、その日使うインターネットすら不安定だった。

ぼくを急かすものは何もなかった。

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つたない英語と、あいさつしか知らないインドネシア語だけを頼りにして、ぼくたちは毎日をやりすごした。

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のんびりした国だった。

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あちこちで色々な人にもてなしてもらった。

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インドネシアの定番料理といえば、ナシゴレンだろう。

たくさんの油、 Sambal と呼ばれるシンプルなチリソース、 Kecap Manis と呼ばれる甘い醤油、長い米、そこに好き勝手に具材を載せた、要するにチャーハンである。

どこの店でも、どこの家でも出てくる。ぼくが毎日のように通ったごはん屋さんもまた、ナシゴレンを出していた。

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食べ終わると、ギトギトでヒリヒリの口のまま、店の前のドラム缶にたむろする。

ジッポと、サンポエルナかガラムかを取り出す。

クレテック特有の甘いフィルターをくわえ、パチパチと音を立てながら火花が飛ぶ。

バナナのような香りの煙がただよう。

ドラム缶には吸い殻が山と積まれる。

それがこの街の日常だった。

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なにもしなくてよくなったのは何年ぶりだろうか。

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パソコンを触らなかった日さえあった。

ぼくの人生の大半はパソコンと共にあったから、よほどのことである。

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ただゆっくりと、ひと月が過ぎていった。

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ぼくは、この国の味を覚えて帰ることにした。

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そうして覚えて帰ってきたのが、ナシゴレンと、ガラムだった。

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帰国後は苦労の連続だった。

仕事もあった、卒論もあった、家庭の状況も凄惨を極めた。

プログラミングで食っていくと決め、朝から晩まで仕事や勉強をやっていくことになった。 正直、こいつに人生を食いつぶされるのだろう。 実際、彼女と別れる原因になったこともあった。

しんどいときはいつも、天体観測などとぬかしてベランダに出ては、ガラムをふかした。

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へんな匂いと、33mgのタール、1.7mgのニコチン。ファッションにしては重過ぎる煙草だ。

女ウケも悪い、健康にも悪い。

正直、自分の知り合いや、大切な人にさえ、ぼくがこんなものを吸っていることを知られたくはなかった。

だから隠していたし、禁煙しようかとも思った。

だが、相手が誰であれ、なかったことにはしたくなかった。

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ガラムの煙には、ぼくを癒してくれたインドネシアの景色が、お世話になった人たちの温かな笑顔が色づいている。

ぼくらしさが何かは知らないが、ガラムは明確にぼくを構成するもののひとつだ。

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だから、まぁ、ぼくがぼくである限り、禁煙をするのはおそらく当分先になるのだろう。