歯を抜いたらしい

日記

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自分が抜いたのは一番奥の歯だった。神経を取るまでに至ったボロボロの歯だ。あるとき、親知らずを抜く代わりにこのボロボロの歯を抜いてしまおうということになった。医者は空いた穴からのびのびと親知らずが生えてくれば完璧とか言っていた。抜かない手はない。

抜かない手はなかったのだが、歯を抜くのは怖かった。感情への敗北である。毎晩抜歯について調べた。歯がボロボロ抜ける夢を見た。熱い風呂はダメ、血餅、ボロボロ抜ける、納豆はダメ、掻爬、ぼくは歯磨きマスター、安静に……

当日。何も手がつかず、そのうち予約時間がやってきた。 もうわけがわからなくなっていて、親からもらった歯を抜くなんて、抜いた後はガーゼを噛んで止血するんだよね、なんも食えなくなったらやだなあ、血のお餅もちもち〜

勝手にベッドが倒され、無限に麻酔を入れられ、口に器具が突っ込まれる。閻魔様が舌を抜く。大丈夫だったら右手を、痛かったら左手を上げてくださいね。ガキャガキャメキメキ言いだす。死んだと思った。自分も奥歯も。ごめんよ、バカなご主人で。ジタバタしてみる。痛いですか?右手で👌をつくる。シャツを掴んでみる。痛いですか?右手で👌をつくる。掻爬はいらないかもね。夏だからかな。左手はずっとお腹の上にある。終わりました〜。は?起こされる。まだ何もやってんくない?うがいしてくださいね。デカい歯がそこへ転がっている。

???

多分まだ抜かれていない。でも血は出る。処方箋も出る。店を出る。左のポケットには奥歯が入っている。痛みをこらえようとアップしてきた気持ちは来るべき衝撃に備えている。シャワーを軽く浴びる。麻酔が切れる。気持ちはまだ、来るべき痛みに備えている。

顔を右に傾けながら、雑炊を食う。枕が血で汚れないようにタオルを敷く。ブログを書く。痛みはない。